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平成15年【序文】

 家庭に一冊、自然界の辞典
 理科年表2003年度版をお届けする。サイズこそ変わらないが、内容はかなり大幅な改定である。表紙デザインも一新して、「21世紀の理科年表」らしくなってきた。
 世界に例のない「自然界のデータブック」である理科年表は、大正14年の創刊以来多くの利用者に愛され育てられ、理系学生や研究者の座右の書、エンジニアや学校の先生の字引として内容・量とも充実を重ねて、今日に至った。しかしここ2?3年、「21世紀の理科年表」をキャッチフレーズに大幅改定の作業が進められてきたのは、単に分厚くなりすぎ、ページをめくるのに不便になったというだけではない。時代の変化が、データ内容の見直しと変更を迫っているからである。また人間自身の生存のためには、自然と環境に知識と関心を持つことがすべての市民に求められる時代になりつつあるという、私たちの認識からでもある。
 理科年表は、「自然界の辞書」である。辞書は、そう簡単に内容を変えては困るし、信頼されなくてはならない。データを変更するのは、第一に気象データや地震火山など自然の新しいデータ、あるいは国名、人口など社会的データの変化への対応。第二に、科学の進歩に伴う、定数などデータの追加や改良。そして第三に、これらに劣らず重要なのが、社会の関心の変化である。たとえば、環境問題。決して迎合しようというのではない。社会がこれほど環境に関心を持ついま、家庭での議論、市民組織による調査や生徒の勉強に役立つデータを、理科年表は提供する必要がある。こうした社会の要請について編集委員会は議論を重ね、すでに部分的な改定も行ってきているが、今回は最も大きな改訂といえる。
 まず生命環境関連では、生体物質や高分子化合物のデータを大きく改定・追加・整理した。またヒト遺伝子関連や免疫に関するデータを大幅に充実するなど、多くの改定がなされた。関係者の尽力により今後も新たな研究の進展を踏まえて内容を強化してゆけそうで、心強い。自然環境では日本の主な火山や地震のデータを一新・整理し、また日本の森林データを広葉樹林・針葉樹林、あるいは人工林と自然林を区分して改定するなど、行き届いた配慮がなされた。そのほか天文では最近続々発見されている太陽系外惑星系のデータを追加し、物理では音響分野などの改定充実、地球関連でも多くのデータが最新のものに置き換えられた。観測基準の変更で日本列島の緯度経度がほんの少しだが変わったのも、注目されよう。
 これだけの改定追加をしながら全体では40べージ以上削減したのだから。喩えは悪いが、いま流行の行政改革の見本みたいなものだ。編集委員、監修者、多くの協力者の方々、出版担当諸氏による大変な努力の結果である。篤くお礼申し上げたい。
 前にも述べたが人間の今後の生存のためには、自然をより深く理解しなければならない。同時に科学や自然の知識は、広く一般市民のものになるべきである。科学を専門家のものとして遠ざけていては、人間の将来は暗い。「家庭に一冊、自然界の辞典」を提唱するゆえんである。

2002年 11 月

国立天文台 台長 海部宣男

 

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