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GPS

 Global Positioning System(汎地球測位システム)の略で,地球の周囲を公転する人工衛星の電波を受信して,衛星までの距離を測定し,受信点の位置を決定する米国の測位システムである.測定には,同時に4個の衛星の電波を受信する必要があること,地球上,任意の地点で常時測位が可能であることなどの条件をみたすため,24個の専用衛星(NAVASTAR: NAVigation System with Timing And Ranging)を配備する.1978年の最初の打ち上げ以来,逐次衛星数も増加し,1993年7月,3台の残存実験機を含めてではあるが,24個の衛星が運行するようになり,一応のシステムが完成した.
 衛星からは,L1(1.57542GHz)波と呼ばれる主電波と,電離層の影響補正用のL2(1.22760GHz)波の2種の電波が発射されている.電波は,疑似乱数コード信号で変調を受けている.このコード信号は,衛星識別信号,時刻信号として使われる.コード信号には,C/Aコード(1.023Mbps,コード長1ms),Pコード(10.23Mbps,コード長1週間)の2種類がある.時刻信号としてのコード信号を受信機内の時刻信号と比較して,電波伝搬時間(衛星距離に対応)を測定する.C/Aコードは,一般利用者が自由に利用できるが,L1波のみを変調する.Pコードは,L1,L2両波を変調するが,コード情報は,一般には,公開されていない.
 測位精度は,C/Aコード利用の場合,水平位置100m,高度150m程度になる.この測位精度は,SA(Selective Availability,排他的利用)による意図的精度劣化措置の結果であり,本来の測位精度は,十数m程度である.C/Aコード信号を利用した測位法は,単独測位と呼ばれ,リアルタイムで測位が可能であり,そのための受信機も容易に入手できる.なお,受信機を船舶,航空機などの運動体に搭載して,その速度を測定することも可能である.
 単独測位がGPS本来の用法であるが,これとは別に,搬送波の波長を測距の目盛り(一目盛り19cm)として利用する測位法が開発された.これは,相対測位(2点間の座標差の決定)になるが,108~1010台の精度で測定が可能である.この精度は,地上の位置決定システムとして,VLBI(超長基線干渉法),SLR(衛星レーザー測距)に準ずる高いもので,受信機の簡便さとあいまって,地球物理の世界に革命的な影響をおよぼすことが予想されている.両測位方式とも,3次元測位であり,測点の空間位置を知ることができる.
 衛星の電波には,さらに軌道要素,衛星搭載時計の規準時系からのずれなどの諸情報が50bpsの割合でのっている.衛星の挙動は,地上の監視局により常時点検が行われ,軌道情報は,ほぼ2時間に1回の割合で最新のものに更新される.
 衛星には,Cs周波数標準が2台ずつ搭載されており,高精度のコード信号を生成する.衛星のコード信号をそのまま時刻信号として利用することも可能で0.1μsの精度で時刻情報を入手できる.この場合,受信点の正確な座標値がわかれば,伝搬時間の厳密な補正が可能で,さらに高精度の時刻を得ることが可能である.また,GPSの電波を利用した時計比較は,時計比較の各種手法の中で,現在もっとも高精度のものと目されており,20nsの精度が実現している.
 衛星の質量は約2000kg,軌道面は6面あり,昇交点が60°ずつ隔たる.軌道傾斜はいずれも55°,各軌道に4個ずつの衛星を配置する.公転周期は,0.5恒星日である.地球自転速度と1:2で同期しているので,衛星は地上と固定関係にあり,決まった地点を連ねる線の上空のみを通過する.したがって,各衛星は地上から見て,毎日それぞれが決まった経路を通過するが,太陽時と恒星時との差により,通過時刻が毎日約4分ずつ早まる.高度が約20000kmと十分高いので,地上の広い範囲で利用できる.

【村田一郎】

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