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宇宙はどのようにして作られたのですか?

 宇宙はおよそ 137 億年前に、ビッグバンと呼ばれる極めて高温・高密度の状態からはじまり、その後膨張を続けて現在に至ったと考えられています。これをビッグバン理論といいます。

  ビッグバン理論によって描き出される宇宙の進化について見ていきましょう。ビッグバン直後の宇宙は高温・高密度の状態にあり、ここで素粒子 光子、クォーク*1 などが生まれます。宇宙は膨張しながら冷えていき、これら素粒子のうちクォークが結合して陽子や中性子が生成され、さらに宇宙の温度が下がるにつれて、それらがまた結合して水素、ヘリウムなど軽元素の原子核が生成されました。宇宙が始まってわずか 3 分でこの状態になりました。その後しばらく宇宙は陽子、電子、光子が入り混じった状態になっていましたが、宇宙の温度が絶対温度で 3000 度くらいになったところで陽子と電子の結合が可能になり水素原子が生成されました。ビッグバンからおよそ 40万年後のことです。ここで、光が陽子や電子に邪魔されずに進むことができるようになりました。これを「宇宙の晴れ上がり」と呼んでいます。宇宙ではその後星やその集合体である銀河が誕生していくことになります。

 

図 1  宇宙のはじまりから現在までの模式図です。無からのはじまり、インフレーション、ビッグバン、宇宙の晴れ上がりなどが時間の流れに沿って示してあります。 ( 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻・佐藤勝彦研究室
http://utapen4.phys.s.u-tokyo.ac.jp/~sato/ より転載 )

 

 さて、ビッグバンの前にはなにがあったのでしょうか? ビッグバンと呼ばれる火の玉宇宙になる直前、10-35 から10-34 秒程度の非常に短い時間の間に、宇宙はインフレーションと呼ばれる真空のエネルギーによって引き起こされた非常に激しい加速度的な膨張をしたと考えられています。さらに時間を10-36 秒程遡ったところで、時間と空間が誕生したと考えられていますが、ここより以前には「時間」という概念が存在しないため、さらに遡ることができません。これは「無」の状態であると言えます。つまり、宇宙は時間や空間という概念がない「無」から生まれたと言うこともできますが、このような極めて初期の宇宙に関してはまだわかっていないことも多く謎に包まれています。

ビッグバン理論を支える観測的事実の代表的なものに以下の 3 つがあります。

 

1)ハッブルの法則 : これは遠方の銀河などの天体を観測したときに、どの方向でも観測される銀河が私たちから遠ざかっていて、その後退速度はその銀河までの距離に比例し、遠くの銀河ほど高速で遠ざかっている、というものです。これは 1929 年にエドウィン・ハッブルによって発見されました。宇宙は大きなスケールで見ると特別な方向や特別な場所を持たないという「宇宙原理」を仮定すると、ハッブルの法則から、宇宙は一様等方に膨張している、という解釈をすることができます。ここで、時間を遡ると宇宙は過去のある時点で一点に集約されることになり、非常に高温・高密度の状態が達成されます。

 

図 2 ハッブルとフマソンの 1931 年の論文に掲載された銀河までの距離 横軸と後退速度縦軸の関係を示した図です。この図の傾きからハッブルは速度と距離の比例係数 現在のハッブル定数をおよそ 560 km/s/Mpc と決定しました。WMAPWilkinson Microwave Anisotropy Probe ; ウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機 の宇宙マイクロ波背景放射の解析によって決定された現在の最新の値は 71 km/s/Mpc 程度ですので、ハッブルの初期の推定は一桁近く間違っていたことになります。( Hubble and Humason 1931, Astrophysical Journal , 74 , 43より転載 )。

 

2)宇宙マイクロ波背景放射: ビッグバン理論が正しいとすれば、初期の宇宙は非常に高温の状態で熱平衡状態にあったと考えられるため、その時の名残として一様等方な放射が現在の宇宙で観測されるはずです。このような放射は 1964 年にアーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンによって、一様等方な絶対温度で 3 度-270 ℃の黒体輻射として観測されました。その後の観測で、その温度は 2.728 度であることがわかっています。

 

図 3 WMAP によって観測された宇宙マイクロ波背景放射の全天図です。ここで見えているムラは現在の銀河の種となる場所を表しています。図上ではひどくムラがあるように見えるかもしれませんが、絶対温度 3 度の平均の値に比べて、わずか 10 万分の 1 度程度のゆらぎしかありません。
( http://map.gsfc.nasa.gov/m_or.html より転載 )

 

3)ビッグバン元素合成: ビッグバン理論で予言される初期宇宙では水素以外に重水素、4He、3He、7Liなどの軽元素が合成されます。これらの元素の水素に対する存在比もまた理論的に予測できますが、その予測は観測と非常に整合的で、現在のところ、宇宙初期の元素組成比を予言できる唯一の理論になっているため、ビッグバン理論の非常に強い根拠の一つになっています。

 

*1 クォークとは、強い相互作用 自然界の 4 つの基本相互作用のひとつをするハドロン 原子核を構成する陽子と中性子もハドロンです と呼ばれる粒子の最小構成要素です。クォークにはアップ、ダウン、チャーム、ストレンジ、トップ、ボトムの 6 種類が存在します。例えば、陽子の場合、アップクォーク2つとダウンクォーク 1 つで構成されています。また、中性子はアップクォーク 1 つとダウンクォーク 2 つの組み合わせです。

 

【小野寺仁人 韓国・延世大学(2008年 4月)】

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