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アルマ望遠鏡の最新成果

 アルマ望遠鏡は,日本が主導する東アジア・欧州・北米が協力して南米チリに建設した巨大電波望遠鏡である.66台のパラボラアンテナを最大で16kmの範囲に展開し,山手線大の仮想的な巨大望遠鏡を構成して,圧倒的に高い感度と解像度でミリ波サブミリ波を観測する.2011年の初期科学観測開始以降,「銀河の形成」「惑星系の形成」「宇宙の物質進化」の3大テーマにおいて,さまざまな観測成果を上げてきている.
 銀河の形成については,130億光年(赤方偏移z~7)を超える銀河に続々と酸素輝線やダスト連続波を検出している.132.8億光年(赤方偏移z=9.11)の銀河MACS1149-JD1での酸素検出は,それまでの最遠記録を更新するものであった.酸素は星の中での核融合によってつくられたものであるから,検出時点以前の星形成活動を知る手がかりになる.MACS1149-JD1では宇宙誕生から2億5000万年後に活発な星形成が起きていたことが示唆され,「宇宙最初の星」が生まれた時代に大きく迫る成果となった.
 惑星系形成では,おうし座HL星をはじめ数多くの若い天体の周囲の原始惑星系円盤が高解像度で描き出されている.うみへび座TW星の円盤では,地球軌道に近い半径を持つギャップ構造(隙間)も発見された(下図).対称性のよい同心円状の多重リング構造を持つ原始惑星系円盤が多く見つかる一方,渦巻型や三日月型といった非対称な構造を持つ円盤があることも明らかになるなど,40年近く用いられてきた惑星形成の標準理論に見直しを迫る結果がもたらされている.
 


図 アルマ望遠鏡が観測した若い星うみへび座TW星を取り巻く原始惑星系円盤
[画像出典:S.Andrews(Harvard-Smithsonian CfA),ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)

 

 物質進化の観点では,星形成領域にグリコールアルデヒドや枝分かれした炭素鎖を持つ有機分子が発見された.また原始惑星系円盤では,メタノールやアセトンをはじめとする複雑な有機分子が多数発見されるなど,生命の起源に関連する研究が大きく進展している.
 さらに,アルマ望遠鏡の性能を一層向上させることを目指して,アルマ望遠鏡将来開発ロードマップが国際的な議論をもとに策定された.一度に観測可能な周波数帯の拡大や最大基線長の拡大(解像度向上)などが謳われており,2020年代にかけてこれらを実現するための開発が進められる予定である.

 

【平松正顕】

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