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プラスチックごみと環境

 プラスチックは過去1世紀でもっとも革新的な発明の1つであり,経済活動や日常生活において重要な役割を果たしている.しかしプラスチックの大量生産,大量消費の結果,大量廃棄されたプラスチックが海洋生態系など自然環境に影響を及ぼし,また人の健康にも重大な脅威をもたらす可能性があることから,地球規模の環境問題として緊急な対策が必要となっている 1).プラスチックは,おもに石油を原料として製造される高分子化合物(ポリマー)から生産される.プラスチックは,軽量で,成形が容易で,腐食しにくいなどの特性のため,家庭用品,製品原材料など多様な用途に利用されており,1回利用されて廃棄されるプラスチックは,使い捨て(ワンウェイ)プラスチックと呼ばれ,とくに食品包装やレジ袋,ストロー,容器,カップなどに利用されている.
 1950年のプラスチック生産量は200万トンであったが,その後生産量は急増し,2015年の生産量は3億8000万トン,2015年までの総生産量は78億トン(添加剤も加えると83億トン)に及ぶ 2~4).Geyerら(2017) 5)の推計によると,プラスチック総生産量83億トンのうち63億トンがプラスチックごみになり,78%が埋立,海洋等へ投棄され,焼却は12%,リサイクルは9%に過ぎない(図1).
 プラスチックごみは,腐食しにくいことから廃棄された後も,長期間,環境中を移動し,滞留・蓄積する.紫外線によって光分解し,また海中では波により破損や摩耗し微細化する.一般に5mm以下に微細化したプラスチックをマイクロプラスチックと呼ぶ.プラスチックごみが海洋に投棄されると,生態系を含めた海洋環境の悪化,誤飲被害や摂食障害など海洋生物への影響,漁業や観光への影響などを引き起こしている.マイクロプラスチックは,地球規模で分布しており,北極や南極においても観測されたとの報告もある 6, 7).環境省の日本周辺沖合海域のマイクロプラスチック調査によると,平成26~27年度調査と合わせてみると,日本周辺の沖合海域で全体的にマイクロプラスチックが分布しており,東北の日本海側および太平洋側沖周辺,四国および九州の太平洋側沖周辺で高い密度で分布している傾向が見られる(図2) 8)
 プラスチックごみ削減の取組は世界各国で進められている 6).とくにプラスチックごみによる海洋汚染は,地球規模の環境問題として,一連のG20,G7サミット等で議論され,2019年6月に日本で開催されたG20大阪サミットで採択された「大阪首脳宣言」には,2050年までに海洋へのプラスチック流出ゼロを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」 9)が盛り込まれた.
 日本では第4次循環型社会形成推進基本計画(2018年6月改訂)を受けてプラスチック資源循環戦略(2019年5月)が策定・公表された.今後の重点戦略として,資源循環(リデュース等の徹底,効果的・効率的で持続可能なリサイクル,再生材・バイオプラスチックの利用促進),海洋プラスチック対策,国際展開(途上国支援,海洋プラスチック分布,生態系影響,モニタリング手法の標準化など),そして企業や国民の協力,技術や消費者ライフスタイルのイノベーションを促す取組「プラスチック・スマート」を展開している.

 

【原澤英夫】

図1 世界のプラスチックの生産量,使用量と廃棄量(1950~2015年,百万トン).
(Geyer,R. et al.(2017) 5)をもとに作図)

 

図2  沖合海域のマイクロプラスチックの分布密度(平成26~28年度を合わせた結果).
(環境省(2018) 8)より転載)

[引用文献] 1)G7:海洋プラスチック憲章(2018); 2)環境省:プラスチック資源循環戦略小委員会資料(2018); 3)UNEP:“Single-use Plastics:A Roadmap for Sustainability”(2018);4)環境省:“環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書”(2019);5)Geyer, R. et al.:Science Advances, 3, 1-5(2017); 6)環境省:プラスチックをめぐる内外の動向(2018); 7)Peeken, I. et al.:Nature Communications, 9, 1505(2018); 8)環境省:平成28年度海洋ごみ調査の結果について(2018年1月23日記者発表); 9)G20:大阪ブルー・オーシャン・ビジョン(2019).

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