天文部「小惑星と隕石の物理的特性」をくわしく解説!
エッジワース・カイパーベルト天体は短周期彗星の起源、オールトの雲は長周期彗星の起源と考えられており、どちらも氷を主成分とする小天体の集団である。
20 世紀の中頃、エッジワース (1943, 1949)とカイパー(1951)がそれぞれ太陽系の外縁部に関する考察で、惑星形成過程を考えると海王星軌道のすぐ外側で天体がなくなってしまうのはおかしいと主張した。さらに彼らは海王星以遠では太陽系星雲ガスの密度は大きな惑星をつくるには低すぎるけれども、微惑星の集団はこの領域にもいるだろうと示唆した。エッジワースはさらに、この領域にある微惑星が時々太陽系の内側へ落下して短周期彗星になるのだろうと考えた。彼らのアイディアは 1980 年代にコンピュータ ・ シミュレーションによって木星族彗星の起源がオールト雲よりエッジワースとカイパーにより提案された海王星以遠の微惑星の領域にありそうだと示唆されるまで忘れられていた。
エッジワース・カイパーベルト天体は 1992 年 8 月 30 日にジューイットとルーによって最初の天体 1992 QB1 が発見され、単なる仮説から正真正銘の太陽系天体となった。現在までに約 1000 個の天体が見つかっている。発見が進むにつれ、最初に予想された黄道面付近のベルト領域には納まらない天体も出てきたため、現在では海王星より遠くの天体をまとめて太陽系外縁天体と呼ぶのが主流である。太陽系外縁天体の中には冥王星の大きさを超える天体や、冥王星に匹敵する大きさの天体が発見され、これらの存在は 2006 年 8 月に惑星の定義を書き換える引き金ともなった。現在冥王星は太陽系最小の惑星ではなく、太陽系外縁部に多数ある小天体の代表と位置づけられる(図 1 )。
太陽系外縁天体は軌道分布に基づいて次の3グループに分類される。 (1)共鳴天体 : 海王星の公転周期と天体の公転周期が整数比になっており、このことにより海王星との接近遭遇が避けられる軌道にある天体群。冥王星はこのグループに属する。 ( 2)散乱天体 : 海王星により散乱された天体群。外側へ散乱されたものと内側へ散乱されたものがある。 (3)古典的天体 : 海王星の影響を受けない軌道にあり、海王星より外側を円形に近い軌道で回る一群。最初に発見された 1992 QB1 はこのグループに属する。太陽系外縁天体がこのように分類されることは、これらの天体が形成以来複雑な力学進化を経たことを示唆している。太陽系外縁天体は暗いので観測が難しく、物理的特性はまだほとんどわかっていない。いくつかの太陽系外縁天体は連星で、それらの連星間の間隔は小惑星帯や地球軌道近傍の小惑星グループにおいて見られる連星系よりかなり広いという特徴がある。これは太陽系外縁天体領域で独特の連星形成メカニズムがあることを示唆しており、興味深い。太陽系外縁部の天体はまだ発見の途上にあり、現在の見積もりが変わる可能性はおおいにあるが、ジューイットら (1996)は 30 ~ 50 天文単位( AU、1 AU は約 1 億 5000 万 km)のベルト状の領域に直径 100 km 以上の天体が約 70000 個あるとしている。
図 1 オールト雲と太陽系外縁天体領域の想像図 (単位 : AU )
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太陽系外縁天体とは対照的に未だ天体が発見されていないのがオールトの雲である。 1950 年にオールト(1950)が長周期彗星の原初軌道 (惑星の摂動を受けないもともとの軌道)の大きさを調べ、これらの彗星が太陽から非常に離れた領域からやってきていることを発見し、太陽から 50000 ~ 100000 AU の領域に太陽系を球殻状に取り囲む長周期彗星の巣があると考えた。この彗星の巣をオールトの雲と呼ぶ。オールト雲の内側は、太陽系外縁天体領域につながっていると考えられている。太陽系近くを通過する恒星や巨大分子雲、あるいは銀河の潮汐力によって、オールト雲天体の一部が太陽方向に落下し、落下天体の一部は惑星の摂動で太陽系外へ放出されるが、惑星の摂動を避けてうまく太陽系深部へ侵入した天体が太陽近くで長周期彗星となる。長周期彗星の多くは初めて太陽近くにやってきた彗星で、再び戻ってくることはほとんどない。
オールトの雲の起源に関して現在広く受け入れられている説は、太陽系の内側で形成された氷微惑星が惑星の摂動により離心率の大きい軌道に変えられて外側に飛ばされ、太陽から遠く離れた所に到達すると今度は近傍の恒星や銀河の摂動で離心率の小さい軌道に戻されて、オールト雲天体に落ち着くというものである。オールト自身は、火星と木星軌道の間にある小惑星帯付近から惑星の摂動により太陽系の外側へ飛ばされた微惑星がオールトの雲の起源である考えたが、小惑星帯から外側に散乱される天体の総量はさほど多くないので、現在は この考えは廃れている。また木星は質量が大きすぎるので、木星に散乱された 天体は速度が大きすぎ、太陽系内に留まらず、オールトの雲を通り越して星間空間へ飛び出してしまうとも言われている。これらのことから、オールト雲天体の力学的起源は天王星・海王星領域にあると考えるのが妥当なのだろう。稀には太陽系外縁天体同士の衝突がオールトの雲へ天体を供給する場合もあろう。 2005 年 7 月のディープ ・ インパクト計画により、長周期彗星と短周期彗星の内部物質には余り違いがないかもしれないことも示唆されている。もしかすると太陽系外縁天体領域からオールトの雲へ天体供給効率は従来の予想よりも高いのかもしれない。
オールト雲天体はかつて一度も発見されていないと記したが、最近発見された太陽系外縁天体である ( 90377 ) Sedna は近日点がおよそ 76 AU、遠日点が 975 AU に達する超長楕円軌道を有している。これまでに発見された太陽系外縁天体の中で最も大きな楕円軌道である。この天体は実は、世界で初めて検出されたオールト雲から来た天体なのかもしれない。
【吉田二美 国立天文台ハワイ観測所(2006年11月)】
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図 2 すばる望遠鏡で見つけた太陽系外縁天体。すばる望遠鏡の広視野 CCD カメラによる撮像。天体が見やすいように CCD 画像の一部を切り出してある。観測は 2001 年 2 月 24 日(ハワイ時間 )。撮像時刻は上 : 23:45:07、中央 : 00:07:18、下 : 00:29:28。露出時間はいずれも 7 分。画像の左の移動天体は火星と木星軌道の間の小惑星帯にある小惑星で移動が速い。露出時間中に移動するので長く延びた像に写っている。太陽系外縁天体は遠くにあるので、移動速度は遅く、 7 分の露出時間中にはほとんど動かず恒星と同じような点像に見える。しかし撮像時刻が約 20 分異なる前後の画像を見比べると、移動しているのがわかる。 |
【 参考文献 】
Edgeworth, K. E., 1943. The evolution of our planetary system., J. Br. Astron. Assoc., vol. 53, p. 181-188.
Edgeworth, K. E., 1949. The origin and evolution of the Solar System., Mon. Not. R. Astron. Soc., vol. 109, p. 600-609.
Jewitt, D., Luu, J. and Chen, J., 1996. The Mauna Kea - Cerro Tololo (MKCT) Kuiper Belt and Centaur Survey", Astron. J., 112, 1225-1238.
Kuiper, G. 1951. On the origin of the solar system. In Astro-physics: A Topical Symposium, ed. J.A. Hynek (NY: Mc-Graw Hill), 357-414.
Oort, J. H., 1950. The structure of the cloud of comets surrounding the Solar System and a hypothesis concerning its origin., Bull. Astron. Inst. Neth., vol. 11, p. 91-110.