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天文部「超新星残骸」をくわしく解説!

 ビッグバン直後の宇宙の元素組成は水素とヘリウム、それに僅かのリチウム、ボロン、ベリリウムだけであった。その後誕生した太陽のような恒星内部でおこる核融合反応により、重元素 天文学では水素とヘリウム以外の元素のことを重元素、あるいは金属と呼ぶ。ただし、炭素より重い元素を重元素と呼ぶ場合もある が作られた。星内部で核融合反応は徐々に進むので、作られた元素はたまねぎ構造となる。星の寿命がつきて超新星爆発した場合、作られた重元素が周辺に広がる。こうして宇宙は次第に重元素で汚染されていく。


  超新星爆発が起こった後、中心に中性子星やブラックホールなど点源が残る場合と、何も残らない場合とがある。点源が残る場合も、その点源が周囲に影響を与え続ける場合とそうでない場合とがある。点源が周囲に影響を及ぼさない場合、爆発によって生じた高温プラズマが周辺に広がる。

  爆発エネルギー ~ 1053エルグ による高温状態が終わると、超新星の熱源は 56Ni などの放射性元素の崩壊熱になる。その後は、噴出物の速度は 10000 km/s前後の猛烈な速さで周辺に広がり星間物質をかき集めながら進む。星間物質の密度は低い ~ 1 陽子/ccとは言うものの、数百年経つと、はき集められた星間物質の質量が噴出物の質量に比べて無視できなくなってくる。星間物質は噴出物に押される形で外へ広がり、強い衝撃波により加熱されると同時に外向きに運動する。この反作用として、噴出物は減速し、そこに発生する強い衝撃波は噴出物中を内向きに進む。衝撃波は、運動エネルギーの一部を効率よく熱エネルギーに変換するので、衝撃波加熱により X線領域で強く光ることになる。図 1 にカシオペアA の X線画像とスペクトルを示す。

図 1 カシオペアA の X線画像チャンドラ衛星 とスペクトルあすか衛星 )。X線画像には外向き衝撃波と内向き衝撃波とが見えている。スペクトルには、電離したシリコン、硫黄、アルゴン、カルシウム、鉄などの特性輝線が見えている。チャンドラ衛星によるX線画像の出典は
http://chandra.harvard.edu/photo/2006/casa/index.html
あすか衛星によるスペクトルは著者オリジナル。


 さらに時間が経過すると、内向き衝撃波は消滅し、外向き衝撃波だけが残る。強い衝撃波によって運動エネルギー 方向の揃った運動が熱エネルギーランダムな運動 に変わると強い非平衡状態が出現し、そこの元素組成を反映する強い輝線放射をする。スペクトルは若い超新星残骸では噴出物の組成を、古くなった場合には星間物質の組成を反映する。


 超新星爆発後に、中性子星がパルサーとして残り、周辺にパルサー風などを通じて高エネルギー粒子をふりまく場合もある。1054 年に出現し藤原定家が「明月記」に記録したかに星雲は、パルサー風を持つ典型的な超新星残骸で、パルサー風に起因する強い衝撃波が形成されている。図 2 にはハッブル宇宙望遠鏡で撮像したかに星雲の全体の様子。また、図 3 には X線と可視光で見たかに星雲の中心部の画像を示す。このときの X線スペクトルは強い磁場のために磁気制動輻射となりスペクトルは滑らか ベキ関数型である。

図 2 ハッブル宇宙望遠鏡で撮像したかに星雲 NASA )
http://hubblesite.org/gallery/album/entire_collection/pr2005037a/

 

図 3 かに星雲のX線画像チャンドラ衛星 と可視光画像ハッブル宇宙望遠鏡 )。X線画像の中心には中性子星 パルサーがあり、その周辺にパルサー風が広がっている。可視光画像には、可視光だけで見える普通の星がたくさん見えている。
( 左 ) http://chandra.harvard.edu/photo/2002/0052/0052_xray_widefield.jpg
( 右 ) http://hubblesite.org/gallery/album/entire_collection/pr1996022a/


 若い超新星残骸では、中心にパルサーが残される場合も、残されない場合も、強い衝撃波が形成され、そこでの粒子加速が効率よく起こる。つまり、エネルギーの低い粒子がほとんどという中から、ごく一部の粒子だけが高エネルギーにまで加速されていることが判った。まさに、超新星残骸は、高エネルギー宇宙線の有力な発生源とみなされている。  

【常深 博 大阪大学大学院(2008年 7月)】

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