気象部「生物季節観測平年値」をくわしく解説!
植物および動物の状態が季節によって変化する現象を観測するのが生物季節観測である。観測の目的は生物に及ぼす気象の影響を知るとともに、その観測結果から季節の遅れ進みや気候の違いなど総合的な気象状況の推移を知ることにある。
気象庁では、目視または聴覚によって観測し、各観測地点で対象とする生物季節現象が最初に認められた時期を求める。観測の最小単位は日である。
生物季節観測は、植物季節観測と動物季節観測に分かれ、前者は植物の発芽、開花、満開、紅 (黄)葉、落葉およびそれらの不時現象を、後者は動物の初見または初鳴およびそれらの不時現象を観測する。不時現象とは秋にソメイヨシノが開花するなどの季節をはずれた生物季節現象をいい、不時現象か通常の現象かの判断は、各観測地点におけるその種目の最早の起日より 30 日以上早いまたは最晩の起日より 30 日以上遅い場合を不時現象の目安にする。不時現象が発生した場合も、通常の生物季節現象に準じて観測を行うが、統計処理には加えない。
生物季節観測は指定されたそのすべての官署で実施する「規定種目」と、各官署が選択して観測する「選択種目」に大別される。規定種目としては日本全国に広く分布している生物を選び、季節の進行の地域比較などに利用される。一方、選択種目は全国的には分布していないが、その地方の季節の進行を知るのに適している生物や、その地域の気候や産業との関係が密接で一般の関心が深い生物が選ばれている。
植物季節観測 | 規定種目 | 選択種目 |
開花 | ウメ、ツバキ、タンポポ、ヤマツツジ、ノダフジ、ヤマハギ、アジサイ、サルスベリ、ススキ | スイセン、スミレ、シロツメクサ、ヤマブキ、リンゴ、カキ、ナシ、モモ、キキョウ、ヒガンバナ、サザンカ、デイゴ、テッポウユリ、ライラック、チューリップ、クリ |
開花、満開 | サクラ(ソメイヨシノ) | ヒガンザクラ、オオシマザクラ、アンズ |
発芽、黄葉、落葉 | イチョウ | |
紅葉、落葉 | カエデ(イロハカエデ) | |
発芽、落葉 | クワ | |
発芽 | シバ、カラマツ、チャ、 シダレヤナギ |
動物季節観測 | 規定種目 | 選択種目 |
初見 | ツバメ、モンシロチョウ、キアゲハ、トノサマガエル、シオカラトンボ、ホタル | トカゲ、アキアカネ、サシバ |
初鳴 | ヒバリ、ウグイス、アブラゼミ、ヒグラシ、モズ | ハルゼミ、カッコウ、エンマコオロギ、ツクツクボウシ、ミンミンゼミ、ニイニイゼミ、クマゼミ、クサゼミ |
初見または初鳴 | ニホンアマガエル |
生物季節現象は局地的な影響を受けやすいので、気象庁では植物については同一個体 (観測用標本)を観測し、動物についてはできるだけ同じ場所で観測している。観測はできるだけ自然の状態におかれている生物を対象とし、人手を特別に加えたもの、たとえば盆栽、鉢植え、温室などの観賞用植物、飼育されている動物などは観測の対象としていない。
【山内豊太郎(2006年11月)】
【参考文献 】
気象庁編 :『生物季節観測指針 第 3 版 』、p.1 ~ 10、気象庁(1985 )