地学部「日本各地の地磁気要素(2000.0年値)」をくわしく解説!
地磁気の 3 成分
地上で磁気を測ると、日本では北に向かって地面に斜めに刺さる方向に向いている。これを表現するためには 3 つの数値(成分)が必要である。理科年表では、地磁気が水平面に対して傾いている角度「伏角」と、地磁気の水平方向の強さ「水平分力」、水平成分が指し示す方向の地理的な北からのずれ「偏角」を用いて表現している。この様な角度を用いた表記法に対して、地磁気の「北向き成分」「東向き成分」「鉛直成分」と 3 つの方向それぞれの数値で表記する方法もある( 図 1 )。
図 1 地磁気の強さ、方向を示すためには、「偏角・伏角・水平分力」または「北向き成分・東向き成分・鉛直成分」など、3 つの成分の組み合わせを用いる。 図 1 では、日本の状況に合わせて地磁気を西寄りに傾けたので、偏角は西方向を向き、東向き成分はマイナスの方向 (西向き)となっていることに注意。 |
日本付近では地磁気は地理的な北よりも西に偏った方向を向いている (図 2 )。このため、理科年表では西に向かう角度を「偏角(W)」としてそのまま正の値で表記している。しかし、通常、偏角は、東に向かって、時計回りの角度を正として示される。この場合、西向きの偏角は負の値になる。理科年表と他の資料を併用する場合は、それぞれの偏角の書き方について注意する必要がある。
図 2 日本の地磁気水平成分の分布。理科年表掲載の数値より作成したもの。地磁気の水平成分は、日本全域で西寄りに傾いている。 (理科年表データより作成 ) |
その場所の磁場の強さ(全磁力 )は、「水平分力」と「伏角」を組み合わせて求めることができる。たとえば、理科年表中にある最北の点「礼文島」では、
25,272 nT(水平分力)/ cos ( 60°12.9' )(伏角 )
= 約 50,900 nT(全磁力 )
最南の点「種子島」では、
33,064 nT(水平分力)/ cos ( 43°54.2' )( 伏角 )
= 約 45,900 nT(全磁力 )
となる。
水平分力では南の「種子島」の方が強いが、これは伏角が小さいからであり、全磁力として見ると、磁極に近い「礼文島」の方が強くなっている。この 2 ヵ所の地磁気の向きを断面図で見てみると、図 3 のようになる。斜めに、かなり深い角度で地面に刺さっていることがわかる。普段、方位磁針を見慣れていると、つい地磁気が水平北方向に向いているように感じてしまうが、実際にはこれだけ急な角度で下を向いているのである。方位磁針の磁石の針も、本当は、斜めに下を向こうとしている。そこで、その傾きを打ち消すために、南側と北側で磁針の重さを変えているそうである。
図 3 地磁気の本当の傾き。理科年表に掲載されている種子島と礼文島では、この様な角度で地面に突き刺さっている。 |
地球の中の磁石
宇宙から地球を見ると、地球の中心部に強力な磁石が置かれているように見える (図 4 )。この磁石は、地球の中心にある核(コア )のダイナモ作用によってつくり出されており、その磁力線は、地球の南極から出て北極へ入って行くように見える (ダイポール磁場と呼ぶ )。すなわち、北極側には S 極、 南極側には N 極があることになる。方位磁針は N 極が北を向くが、それは北側に地球の S 極があるためである。核 (コア)がつくり出すこの磁石は、決して安定したものではなく、非常にゆっくりとだが強さや方向が変化している。それどころか、 N 極と S 極がひっくり返る逆転現象も何度となく起きている。
図 4 宇宙から地球を見ると、地磁気の分布から、地球は中心部に強力な磁石を持っていると見ることができる。北極側にはこの磁石の S 極が、南極側に N 極がある。 |
もう少し詳しく見ると、地球のつくり出す磁場はひとつの磁石でたとえられるような単純なものではなく、はるかに複雑な分布をしている。部分的に強いところや弱い地域があり、それらを表現するためには複雑な公式が必要となる。したがって、地上で方位磁針を見た場合、針は単純に磁気の北極を向くのではなく、局地的な乱れの影響を受けて偏った方向を向いてしまうのである。
現在、地球の巨大磁石の北極点はカナダの北部にある。図 5 を見ると、日本から磁気の北極点は北からやや東寄りに見える。しかし、上でも述べたように、日本付近の「偏角」は一様に西寄りになっている。これは、シベリア付近に局地的に磁場の強い領域があるので、そちら側に引き寄せられているためである。
図 5 巨大磁石の北極は、カナダの北部にある。日本から見た場合、北からやや東寄りになる。 また、磁気の北極から測って、緯度 70 度から 65 度の領域をオーロラ帯と呼ぶ。平均的にオーロラが最も良く見られる地域である。 |
宇宙から地球を見ると
もし、宇宙が真空であったならば、地球の持つ磁場は広大な宇宙空間に向かって、そのまま広がっていくであろう。しかし実際には、太陽からプラズマ状態 (電子や陽子など、電気を帯びた粒子が混ざり合ったもの )の大気が絶え間なく流れ出し、地球軌道はもちろん、木星、土星、冥王星の彼方まで広大な空間を満たしている。この太陽風の影響で、地球の磁場は地球半径の約 10 倍のところで押し込まれ、窮屈な形になっている (図 6 )。この閉じ込められた領域を「磁気圏」と呼ぶ。宇宙空間における地球の縄張りである (その外は太陽風が支配する世界 )。
図 6 地球の磁場は、太陽風とのせめぎあいによって、太陽側は小さく押しこまれ、太陽の反対側は細長く引き延ばされた形となる。この領域を磁気圏と呼ぶ。オーロラは、磁気圏内部のプラズマ活動によって作られる。(上出洋介/日経サイエンス) |
地球から見ると、太陽風は太陽方向からやってきて、太陽の反対方向に流れ去っていく。この風の流れに押されるため、磁気圏の太陽側は小さくつぶされるが、その一方、太陽の反対方向では風に引き伸ばされて、地球半径の数 100 倍にまで伸びている。まるで、鯉のぼりが風に吹き流されているかのような姿である。
地球は、磁場を持つことで太陽風の直撃を避け、地球大気の環境を守っている。その一方、磁気圏内に蓄えられた太陽風のエネルギーが爆発的に解放されるとき、そのエネルギーが北極や南極の上空へ集中的に流れ込む原因ともなっている。オーロラの光が北極や南極の空を彩るのはこのためである。オーロラは木星や土星などでも観測されているが、磁場と大気を持つ惑星だけで見ることができる特別な現象である。大気はあっても磁場が非常に弱い火星や金星では見ることができず、磁場はあっても大気が無い水星では光をつくり出すことができない。
現在の地球では、オーロラは地磁気の座標系で緯度が 65 ~ 70 度の地域を中心に見ることができるが ( 図 5 )、これは地磁気の強さと太陽風の状態に依存している。太陽風の速度や磁場が大きく乱れると、オーロラはずっと低緯度の地域にまで広がり、フロリダや北海道で見えることもある。一方、地磁気が現在よりも強まったり弱まったりすると、オーロラが見える地域もまた、高度側にずれたり、低緯度側に下がったりすると考えられている。
【篠原 学 九州大学宙空環境研究センター(2007年 8月)】