生物部「光合成の炭酸固定反応(カルビン回路)」をくわしく解説!
植物に光があたると水と空気中の二酸化炭素から酸素を発生するとともに多糖類であるデンプンをつくるということが 19 世紀中に解明された。その後、発生する酸素は水に由来すること、デンプンがつくられる前に糖分がつくられることがわかり、光合成の反応式は
12H2O + 6CO2 → (CH2O)6 + 6O2 + 6H2O ・・・( 1 )
と表わされるようになった。この式の右辺の (CH2O) は炭水化物(ショ糖やデンプンなど)を表わしている。緑色植物では光合成は細胞の中に存在する葉緑体という細胞内器官の中で起こる (図 1 )。 Calvin M. のグループは単細胞緑藻であるクロレラなどを用いた実験によって (1)式の CO2 がどういう物質に取り込まれて炭水化物になるかを、当時 (1940 年代)利用が可能になったばかりの 14C を用いて調べた。彼らはクロレラの懸濁液に光を当て 14C(炭素の放射性同位元素)を含んだ CO2 を与えて種々のタイミングで懸濁液をアルコール中に滴下して固定し、クロレラが含む 14C 成分をクロマトグラフィーによって分離し放射能を指標にして同定した (一例を図 2 に示す )。この放射能ラベルを用いたトレーサー法をもとにして彼らは独立栄養生物の炭素同化の経路であるカルビン回路を解明した。 Calvin はこの研究によって 1961 年のノーベル化学賞を授与されている。
図 1 葉緑体の模式図。クロロフィルなど明反応にあずかる成分はチラコイドにカルビン回路の酵素はストロマに存在する。
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図 2 クロレラ細胞懸濁液に光照射下 5 秒間 14CO2 を与えてから固定。 |
理科年表のカルビン回路の項目を見てみよう。図から 1 分子の CO2 は最初 RuBP という 5 炭糖二リン酸(5 つの炭素よりなる )に吸収されて 2 つの PGA(炭素 3 つの化合物 )を生じる。この反応は RuBP カルボキシラーゼ / オキシゲナーゼ(Rubisco、ルビスコと呼ばれることもある )という酵素によって触媒される。ルビスコの CO2 に対する親和性は必ずしも高くないので CO2 濃度が低く、 O2 濃度が高く、強光、高温の状態ではルビスコはもう 1 つの活性であるオキシゲナーゼ活性を発揮することがある。この場合 RuBP には CO2 ではなく O2 を取り込んで PGA1 分子と炭素 2 個よりなるグリコール酸を 1 分子つくることになる。この場合は光呼吸 (生 74)と呼ばれる経路につながる。通常どおりルビスコがカルボキシラーゼ活性を発揮して 2 分子の PGA をつくった後は、 PGA は ATP を消費しリン酸を 1 つ増やしたビス PGA になる。これは NADPH により還元されてグリセルアルデヒド‐3‐リン酸あるいはアイソマーのジヒドロキシアセトンリン酸を生じる。これらは総称してトリオース (3 炭糖)リン酸(TP と略称)と呼ばれる。 TP は理科年表の図にあるように炭素が 4 つから 7 つよりなる複雑な中間物質を経てリブロース‐5‐リン酸 (Ru5P)になる。さらに Ru5P は ATP によりリン酸を 1 つ増やし最初に述べた RuBP を生成する。また、 TP の一部は 6 炭糖リン酸を経てショ糖やデンプンをつくる経路へ出て行く (図 3 を参照 )。これらの反応はすべて酵素によって触媒される暗反応である。カルビン回路 (還元型ペントースリン酸回路と称することもある )は CO2 という無機物質を還元して炭水化物に同化する系なので外からエネルギーが供給されることが必要である。このエネルギー源として NADPH や ATP が必要で葉緑体のチラコイド膜系で行われる明反応から供給される。結局 1 分子の CO2 を固定するために、 2 分子の NADPH と 3 分子の ATP が必要である。なお C4 型植物(生 74)の葉肉細胞における CO2 固定の 1 次産物はオキサロ酢酸等の C4 化合物であり、維管束鞘細胞などの葉緑体に運ばれ、いったん CO2 に戻ってからカルビン回路のルビスコにより再固定される。これは CO2 の濃縮過程と考えられる。
【眞鍋勝司 横浜市立大学大学院(2007年 9月)】
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図 3 光合成の炭酸同化作用の流れ。図の上部はルビスコによる CO2 の固定。右下の区分が還元反応、左下は RuBP の再生経路を表わす。図では 3 分子の CO2 が固定された場合を示している。
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