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放射線の種類と性質

 放射性同位体から放射状に放出されている放射線の強度は、距離の 2 乗に反比例する。放射線は、物体や人体と相互作用してエネルギーを与えて自分はエネルギーを失う。放射線防護の立場では、放射線が物体にエネルギーを与える場合を遮蔽といい、人体に与える場合を被ばくという。

光子γ 線、X 線と物質の相互作用 γ 線や X 線は電波や可視光と同じ電磁波であるが、エネルギーが高いので、光子と呼ばれる粒子のイメージで考えてよい。高エネルギー光子が物質との相互作用でエネルギーを失う過程には、光電効果、コンプトン散乱、電子陽電子対生成がある。これらの過程の前後で、全エネルギーと全運動量が保存されなくてはならない。
 光電効果は、光子の運動量の一部を原子が受け止めることにより、光子が原子内の電子に全エネルギーを与えて電離する過程である。
 コンプトン効果は、原子が運動量を受け止めないときに起きる。このとき、光子はエネルギーの一部しか電子に与えることができず、エネルギーが低くなった光子として散乱される。散乱された光子や電子の進む方向と光子が電子に与えたエネルギーとの間には決まった関係がある。光子が電子と正面衝突をして光子が 180°向きを変えて進むときに、最も多くのエネルギーを電子に与えることができる。物体が十分大きければ、散乱された光子は同じ物体の中で引き続き光電効果やコンプトン効果を起こし、そのうちなくなる。
 電子陽電子対生成は、光子のエネルギーが 2mc2 =1.022MeV,mc2=511keV
は電子の質量 m がもつエネルギー、c は光速以上のときに起きる。すなわち、光子のエネルギーのうち 2mc2 が電子と陽電子を生成するのに使われて、残りのエネルギーが発生した電子と陽電子の運動エネルギーになる。入射した光子と生成した 2 粒子だけでは全運動量と全エネルギーの双方を保存できないので、この過程は運動量を受け取ってくれる原子核の近くでしか起こらない。
 これらの過程の起こりやすさを断面積と呼ばれる量で表すことができるが、光子のエネルギーが低いと光電効果の断面積が大きく、つぎにコンプトン効果の断面積が大きくなり、1.022MeV より十分高いエネルギーでは電子対生成の断面積が主になる。ただし、この移り変わりのエネルギー依存性は、物質をつくる元素によって異なる。
 このようにして生じた電子や陽電子は、物質中の電子や原子核とクーロン力で強く相互作用するので、光子と違って物質中をほとんど進まない。なお、陽電子が生成した場合は、その後、物質中の電子と対消滅してエネルギー mc2=511keV の γ 線を 2 本放出する。

α 線、β 線と物質の相互作用 α 線ヘリウムの原子核 )、β 線電子 等の荷電粒子と物質の相互作用では、入射した粒子がなくなることはない。相互作用のたびにエネルギーを失っていくだけである。
 相互作用のおもなものは、原子・分子内の電子の励起と電離である。荷電粒子が物質にエネルギーを与える割合は、粒子の軌跡 x に沿った単位長さあたりのエネルギー減少 -dE/dx で記述され、阻止能と呼ばれる。電離によって生じた電子 2 次電子も入射した荷電粒子と同様の過程をたどる。
 入射粒子と物質中の荷電粒子との衝突による阻止能は、入射粒子の種類によらず、ほぼ電荷の 2 乗に比例し、速さの 2 乗に反比例し、標的物質の密度に反比例する。
 入射粒子が止まった位置の表面からの距離を飛程という。入射粒子は次第にエネルギーを失うが、止まる直前では速さが小さくなっているので阻止能が急に大きくなる。そのため、エネルギーの決まった α 線ではほとんどすべての粒子がほとんど同じ飛程で止まる。そこで、半数の粒子が止まる位置を飛程とすることが多い。エネルギー E の α 線の空気中の飛程は近似的に
 Rair/cm = 0.318 (E/MeV)3/2
で与えられる。電子でも同じように止まる寸前に阻止能が急に大きくなるが、電子は軽いために衝突のたびに進行方向が大きく変えられているので、飛程の分布の幅が広くなる。そこで、最も深く到達する場合を最大飛程という。最大飛程は明確な測定値が得られないので、吸収曲線の傾斜の最も急な部分を直線で延長して、強度が 0 になる距離である実用飛程が用いられる。飛程は密度に反比例するので、飛程に密度をかけた g/cm2 単位で表すと、電子の最大飛程は物質にあまり依存しない。

中性子と物質の相互作用 中性子は直接電子にエネルギーを与えることはほとんどない。おもな相互作用は、物質を構成している原子の原子核との弾性衝突と非弾性衝突と核反応である。中性子と原子核が衝突したとき、原子核の内部のエネルギーは変わらず、エネルギーがすべて原子核と散乱した中性子の運動エネルギーになる過程を弾性衝突、エネルギーの一部が原子核の内部の励起に使われる場合を非弾性衝突という。核反応には、中性子が原子核に吸収される反応や、原子核を吸収して原子核が分裂する核分裂反応などがある。

【兵頭俊夫】
( 理科年表 2012年版平成 24 年版震災特集より )

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