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創刊100 年を迎えて

 理科年表は1925年(大正14年)2月20日に発行され創刊100年を迎えました.創刊時の編纂兼発行者は東京天文台(現・国立天文台),発行所は丸善株式会社(現・丸善出版株式会社)でした.当時,東京天文台としての一番の発刊の動機は,暦の出版だったとのことです.
 国立天文台の図書室にある最初の巻を手に取ってみると,文庫本くらいの大きさで厚みは1.5センチメートルほど,ハードカバーでしっかりとした装丁です.序文は  

「此年表ハ一般理學ノ教育,研究及ビ應用ニ便スル爲メ毎年發行スルモノデ,暦部及ビ天文部ハ直接東京天文臺ノ編纂ニ係リ,其他ハ次ノ諸氏ノ監修ニヨツテ編纂シタモノデアル.」

という簡潔な文で,そのあとに中央気象台長と4名の東京帝国大学教授からなる監修者,単位表記の説明,麻布時代の東京天文台の緯度経度が記され,目次へと続いていきます.当時は暦部,天文部,気象部,物理化学部,地学部の5部構成でした.ページ数は索引を含めて329ページと2025年版の1,185ページに比べると3分の1以下でした.
 1925年版と2025年版を見比べると生物部,環境部が増えたことはもちろん,同じ表が何倍にも長くなり,また,新たな項目がいたるところに登場し,100年の間に人類の知識の蓄積がいかに進み,理科年表がいかに充実してきたかを実感します.
 理科年表には,大発見や大きな出来事を記載した年表も,いくつもの分野で掲載されていますが,この100年間の科学の進歩は枚挙にいとまがありません.たとえば人類の宇宙観は,星が静かにひろがる世界から,無数の銀河が高速度で遠ざかりあうビッグバン宇宙へと進歩しました.地球の研究も画期的に進み,沈み込むプレートの地震学モデルや地球全体の気候モデルの研究などが発展しました.量子力学が進展し,ミクロの世界では電子・陽子・中性子の世界からクォークを始めとする多種の素粒子の世界に進歩,生命を構成する分子や新発明の化学物質等も含めた膨大な種類の物質の性質や反応が測定され,応用されるようになりました.さらにDNAの発見は,生物・化学の分野を超えた非常に広範囲の分野での研究や応用につながっています. 
 過去100年にこれらの大発見や進歩があったと思うと,次の100年にどのような科学の発展がありそうか,心からわくわくいたします.一方で毎年データが更新されるとおり,気候変動や環境の悪化も懸念され,私たち一人ひとりが真剣に対策を考える必要があります.理科年表が100年後も人類の叡智を集約して,より多くの人々に役立つ「科学のデータブック」であり続けるよう,今後も毎年しっかりと科学の進歩や発見を紹介し,最新情報を提供してまいりたいと思います.

 2025年10月

国立天文台 台長 土居 守

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